
E60 M5 MT化換装ショップの秘密
2026年08月14日 00:45
今回は、皆様のご関心の高い海外のショップについて。
そのショップは、複数のF1チームや名だたるモータースポーツカンパニーが本拠を置く街の少し離れたところにあります。とてもきれいな田園地帯を抜けたところにそのショップはあります。
敷地に入ると、そこはまるでBMW Mのドリームランド!のような場所であることが分かります。
これほどの敷地を持つ独立ショップは、日本にはなかなかないですね。
それにしても、これだけの敷地を使って、働き盛りのメカニック7人でこれだけの数の車両を扱い、それを率いるオーナーはモータースポーツの中心(頂点)であるF1のメカニックまで登りつめ、そこで「That's enough! これからはやりたいことをやる!」と叫び(推測)、ゼロから今のショップを立ち上げるとは、これも日本ではありえないうらやましい限りの話です。
(時々登場する黒い犬は「エンツォ」という名前です。なぜフェラーリ?)
写真を見れば分かりますが、この日もバックヤードにはV10M5とM5ツーリング、M6だけでも合わせて5,6台は入庫され、神の手?によるMT化を待つ車両と、すでにMT化を終えてさらなる整備を待つ車両として静かにたたずんでいました。
この中には、不自然にフロントが浮き上がったM5ツーリングが1台含まれています。
この車両は、かの有名な?クリス・ハリス氏が個人所有するツーリングで、フロントが浮いているのはエンジンを降ろしてフルレストア中のためです。
クリス・ハリス氏は元Autocar誌の名物ライターで、Autocar Japanを読んでいた方はご存じと思いますが(日本的に見れば記事とは呼べないような独特の文体で、私は大ファンでした)、現在は、ハリス・モンキーの愛称で様々な車関係ビジネスに精力的に取り組んでいます。
ちなみに、この車はその後アルピナグリーンにリペイントされ、内装も謎のベロアかスエード素材のようなものでリフォームされ、SNS等で紹介されています。(この方はSMGが好きだ、と言ってMT化は施していません)
このように、このショップでは、車の整備から塗装・内装まで、顧客の求める様々なサービスを提供できるようになっています。
オーナー曰く、将来的に、車のためのあらゆるサービスをすべて自分のショップで提供できるようにしたい(現在、塗装は自前ですが、内装は他のショップに外注)とのことで、今の勢いで行けば、それほど遠くない将来、可能になるのではないかと思います。
このショップのガレージには、他にも、顧客から保管委託された希少車両が沢山収められていて、E46M3CSLは4、5台、その他、レーシング車両や、中には22Bも含まれていました。
一つ印象的だったのは、ピッカピカのCSLのドアを開けると、ハンドルの横に見慣れない特殊レバーが付けられていて、レース用のシフトレバー?と聞くと、この車のオーナーは車いすユーザーだからこれはアクセルペダルだ、とサラッと返されたことです。
何気ないやり取りでしたが、そういう方々がただの移動手段ではなくモータースポーツを楽しむ手段としてこの手の車を購入する、そして、それを家族も理解をして、サポートを提供するショップも普通に存在するということにとても衝撃を受けました。
この国もいろんな問題があるんだろうけど、社会の成熟度という点では、日本より100年くらい進んでるなと感じた小さなやり取りでした。
ちなみに、彼の経歴をざっと書くと、フォーミュラ3系?のBMWやルノーチームのNo1メカニック、マクラーレンGTワークスのNo1メカニック、ウィリアムズF1チームのNo2メカニックを約9年間、並行してメルセデス・AMGのF1などのヘリテージテクニシャン(F1引退車両などの動体保存やイベント稼働)をしながら、コロナ前ごろに今のショップを立ち上げているようで、他にもなにやらマクラーレンMP4-12C GT3の開発やテストドライブ、レース転戦にも携わったとかで、たぶん走らせるほうも結構なレベルなんだろうな、という感じです。


なぜ、頂点のF1メカニックをやめて自分のショップを立ち上げようと思ったのか、については、ガレージに置かれた箱を指さして、「F1の世界はな、この箱をあっちの場所に持っていく、それをまたこっちに持ってくる、この作業だけを延々と繰り返す仕事みたいなのばっかりだ。それに気づいて、もう十分だって思った。」とのこと。
自分のショップを作って、自分のやりたいことだけをやる、そう決めたそうです。
笑いながら言ってましたが、なんか頂点を知る人間だけが語れる言葉なんだなと感じました。(ただのジョークだったのかもしれませんが)
そこからなぜ、E60M5のMT化に繋がるのかはよくか分かりませんが、元々はE46 M3 CSLのMT化サービスから始めて、それならE60 M5 SMGのMT化もできるはずだし技術力の高さをアピールできると考え、試行錯誤して成功させ、これまでにE60 M5は2、30台、E63 M6は需要が少なく5,6台くらい依頼を受けてこなしているそうです。
当社が依頼したのはショップでは初の日本仕様のM5だったので、日本仕様は基本的にEUモデルだけどローカライズされている部分もあると思うから気を付けてね、と伝えたところ、これまで自分で何台こなしてきたと思ってるんだ、わが社にできないことはない!という頼もしい言葉で、きちんと納期までに作業を完成させてくれました。
彼の目下の悩みは、MT換装に使うM3用MTの確保が困難になっていることと、調達コストが跳ね上がっていることだそうで、この国でもE9X系M3のベース車両が値上がりし、それに伴いM3用中古MTの供給も先細ってきているとのことでした。
前回も書きましたが、同型式の他モデル用のMTは適合しないことをすでに確認済みなので、いずれはBMW本社からM3用MTを購入することになるかもしれず、その場合はコストがさらに跳ね上がることになるそうです。
それもあって、彼のショップでは以前からSMGⅢをM3用DCTに置き換えるプロジェクトをずっと進めていて、すでに走行テストも完了していますが、当社的には、わざわざ高いコストを払って日本から車両を運んで再度自動変速のDCTに換装する需要はない、と判断して導入は検討しておりません。(もしご興味があるという方はご連絡ください)
これに対して、当社の目下の悩みは、やはりMTなどのパーツコストに加えて海外輸送や陸送などのあらゆるコストが跳ね上がっていること、そして、彼のビジネスのメインがすでにE60 M5のMT化などの一般人を対象とするサービスから、レース車両整備やプライベーターのサポートにシフトしてきて、彼自身が多忙を極めていることです。
特に、欧米では、春先から秋口くらいまでがモータースポーツやイベントの繁忙期のため、この期間の作業は頻繁に中断され、時間がかかることになります。
また、こんな気のいい何でもやれてしまう凄腕の彼のところには、ひっきりなしに常連さんが相談に来たり、お得意さまや「患者さん」(そして彼の愛するご両親)から、電話やメッセージがひっきりなしに来て、てんてこ舞いの状況です。
最近当社のSNS投稿で、「自然吸気V10滅亡まであと5年」、とか危機感をあおるフレーズを書き込んでいますが、あながち冗談ではなく、この1,2年でのE60M5、E63M6のオークション出品状況などを見ると、おそらくあと3年もすればさらに個体が減り、SMGトラブルや他のエンジントラブルなどを放置して救うに救えない車両だけが市場に残る状況になると感じています。
本来、E60M5は世界中で約2万台が販売され、うち、日本には1,350台が輸入されたといわれていますが、いま日本で生き残っている数自体相当少なくなっていて、残りはすでにスクラップにされて部品取りされてしまったのではないかと思います。
残されたこの数年の間に、どれだけのBMW V10を救えるか、時間との戦いになる中で、世界情勢も刻々と動いて、むしろ悪いほうに動いています。
と、さんざん危機感をあおってみましたが、でも大丈夫です。
なぜなら彼は、日本と日本支社(当社のことです)のことをとても気にかけているからです。
F1の世界転戦の中で、日本の鈴鹿には何回も来ていて、「日本って食いもんうまいよなあ。いいとこだったわぁ」という刷り込みがしっかりなされていますし、どこまで本心か分かりませんが、「俺が一番好きな車は実は日産パルサーなんだ」?とか言ってたんで、たぶん頼めばなんでもやってくれそうな気配です。(ちなみに資金を考えすに一番欲しい車はマクラーレンF1だそうです)
もし、こういうことはできないか?とか、フルレストア的な、日本のショップさんだとまずお話を聞いてすらもらえないようなことであっても、彼が率いるチームと彼の持つネットワーク、そして不可能を可能にする彼の情熱が必ず解決に導いてくれますので(たぶん)、当社HPから何なりとお問い合わせください。
あと、この国には我々の知らない車がまだまだ沢山存在しています。
例えば、F80 M3セダンのMTとかE36 M3セダンの右ハンドルなどもありますので、そのような車両の輸入手配や注意すべきリスクなども当社でアドバイスできますので、同じくなんでもお問い合わせください。
お問い合わせをいただいても、こちらからは情報をお伝えするだけで、特にセールス等は行いませんのでご安心ください。(巧妙に危機感をあおる文言は入るかもしれません)
今回は旅ログの独り言のような内容になってしまったので、この辺で打ち切ることとします。
皆さまの当社へのご興味やご理解につながれば幸いです。

E61 M5ツーリングは現地で現在販売中(2026.08.09)。現地価格は、この車両の底値に近い約800万円ですが、輸入すると海上輸送や輸入消費税など、トータルで1,000万円は確実に超えます。エンジンを新品に乗せ換えているのは魅力的です。現地でMT化して輸入することも可能ですので、ご興味のある方は当社までお問い合わせください。